JR北海道でのQRコード改札機の導入と可能性ーJR東日本の導入決定を受けて

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2022年11月8日、JR東日本が「QRコードを使用した新たな乗車サービスの導入について」というタイトルで、興味深い内容のアナウンスがあった。既存のチケットレス改札に加えて、Suicaを使わずとも、券売機や窓口を使用することなく、QRコードで乗車から下車までができるようになるという、いわゆる「QRコード改札システム」の導入である。

この報道をうけて、Yahooニュースなどのニュースサイトではその是非について多くの議論を呼び起こした形となったが、営業コストの削減に寄与できるという点については誰もが認める点であろう。

そこで、本記事では万年赤字の経営体質からの脱却と、地域交通の担い手として責任ある自立した経営を常に求められているJR北海道について、QRコードを活用した改札システムの可能性について考察を深めていきたい。

JR東日本が導入するシステムはどのようなものなのか

JR北海道での導入について考える前に、まずはJR東日本が導入を発表したQRコードを用いた乗車サービスについてみていきたい。

まずは、前提としてあるのは、JR東日本の「えきねっと」を通した予約・購入分が対象であり、その中でも、購入時に「QR乗車」を選択したものに限るということだ。

この「QR乗車」のメリットとしては、例えば新幹線を利用するときの乗車券・特急券を1枚のQRコードで集約できるというものである。

JR東日本より「アプリ画面のイメージ」
JR東日本より「アプリ画面のイメージ」

上記は、開発中のシステムの画面イメージである。見てわかる通り、「QRコードを表示」を押すと、画面にQRコードが表示され、以下のような自動改札機を備えた駅では、QRチケットをスキャンすることで通過することとなる。

JR東日本より「新型自動改札機(在来線用)へのQRリーダー設置例

JR東日本より「新型自動改札機(在来線用)へのQRリーダー設置例

イメージとしては飛行機でのチェックインや搭乗手続きの場面で、QRコードをスキャンするのに近いだろう。

そして自動改札を備えない駅では、アプリ上で乗車をするかどうかのダイアログが表示されるようになり、「乗車する(画面上では「はい」)」を選択することで乗車したとみなされる。

このダイアログについては、正確性や不正の可能性などについて批判的な意見があるかもしれないが、現在地方の無人駅では、無人改札機が設置されていることを考えると、現状と変わらないと考えることもできるだろう。

JR北海道での導入はあり得るのか

以上がJR東日本が発表したQR乗車サービスの概要だが、果たしてJR北海道での導入はあり得るのだろうか。筆者は極めてその可能性が高いと考える。以下、その理由を軽く述べる。

JR東日本のシステムを使用しているから

まず1つ目の理由として、JR北海道はJR東日本の「えきねっと」というシステムを借用しているという現実的な理由を挙げたい。

現在、JR北海道は自前の予約システムを保有することなく、JR東日本の「えきねっと」を使用してオンラインでのチケットの予約や発券を行っている。
(理由については詳しくは述べないが、自前でセキュリティー対策や個人情報を保持する危険性と、新たにシステムを構築したり、維持したりする費用を考えたときに、JR東日本のシステムを利用させてもらえば、莫大なコスト負担を避けつつ、万が一の場合でも個人情報漏洩やセキュリティーリスクの軽減につながるという見方ができるのではないか)

そのため、「えきねっと」の機能として「QR乗車」が実装されれば、それを利用するJR北海道が「QR乗車」のサービスの提供を開始することは、QRコードリーダーなどの設備投資は必要でありながらも、それほど大きな負担とならないためである。

地方の駅でのチケットレス化が安価に進められる

2点目の理由として、JR北海道でIC乗車が可能なエリア(Kitacaエリアと同義)は、札幌近郊区間の一部となっており、QR乗車サービスを提供することでより安価に、チケットレス乗車が可能なエリアが増えると考えられるからだ。

JR北海道より「Kitaca対応区間」
JR北海道より「Kitaca対応区間」

今年9月14日には、このKitacaエリアの拡大についての報道発表があり、同発表によると2024(令和6)年春に函館方面の近郊区間と、旭川方面の近郊区間においてKitacaをはじめとする交通系ICカードを用いた、ICカードの利用が可能となるとされている。

JR北海道より「Kitacaエリア拡大のイメージ」
JR北海道より「Kitacaエリア拡大のイメージ」

一方で、例えば苫小牧ー東室蘭間など、比較的旅客需要が多いものの、いまだ対応が未定となっている営業区域もあり、これらの地域などにおいては、QR乗車の導入によるチケットレス化が容易に進められ、営業コストの削減と利便性の向上が期待できる。

QRコードを用いたチケットレス乗車が、既存のICカードと比べてより安価になる理由としては、現在使用されているICカードはFelicaというSonyが開発した規格を採用したものであり、特に大都市圏での、大量にかつ高速な処理に耐えうるように、開発された規格となっており、専用のリーダーの導入など設備投資費用が膨大になりやすいことがあげられる。

一方で、QRコードについては、読み取り速度や処理速度についてはFelica規格を採用したICカードと比べると劣るが、一方でオープンソースで導入するQRリーダーも比較的安価であり、圧倒的に設備投資コストを削減することができると考えられる。

とくにJR北海道の地方線、ローカル線などの利用では、大都市圏のような高速かつ大量の処理を必要とする利用は考えられないことから、スケール感にもあった適切な投資であるといえる。

観光客の利用が多く、専用チケットなどを販売しやすい

3点目の理由として、外国人旅行者や、観光客などを意識したお得なチケットの販売が、QR乗車によってさらに簡単になるという点を挙げたい。

外国人旅行者・観光客が好例であろうが、観光の足としてJRを使う場面は多い。特に北海道に限ってみても、広大な土地を旅行期間の中で移動するといったニーズが高く、コロナ前は多くの外国人旅行者が特急列車を利用して北海道を移動していた。

これらの旅行者の多くは、Japan Rail Passなどの外国人旅行者専用切符や、その他北海道フリーパスなどの切符を利用することが多く、磁気切符が用いられている。

https://japanrailpass.net/about_jrp.html よりJapan Rail Passを日本国内で購入する際の料金表
https://japanrailpass.net/about_jrp.html よりJapan Rail Passを日本国内で購入する際の料金表

しかし、先述の通り、磁気切符を発行するためには専用の設備を兼ね備える必要があり、現に限られた場所でのみ販売されるという特徴があるため、外国人旅行者が磁気切符のお特な切符を購入する場合、日本の駅窓口などで現地購入するか、インターネットで申し込みをしたものを窓口で引き換えする必要が生じてきてしまう。

その点、QRコードはインターネットの申し込みで簡単に発行でき、発行されたQRコードを使用することで切符の引き換えが不要となるQRコード乗車が、観光ニーズと親和性が高いということだ。

もちろん、QRコードを利用することで磁気切符の発行と比べてコストを削減できること、販売区間などをシステム的に自由に設定できることなど、磁器切符と比べ拡張性に富んでおり、例えば、QRコードでのみ販売する割引率の高いお得な切符や、ツーリスト向けの特定区間のみ有効な切符など、切符やプラン設定の幅も広げることができるであろう。

QRコード乗車はJR北海道にとってプラスとなるか

これまでJR東日本が導入をきめたQRコード方式によるチケットレス乗車サービスを参考に、JR北海道でのQRコード乗車の可能性について見てきた。

QRコードは従来の磁気切符とくらべて発行にかかるコストを抑制することができるほか、設備整備にかかるコストも抑えられることから、営業コストの全体的な削減が期待できる。

また、システムの弾力的な運用が可能となることから、より柔軟な料金体系や、プランの提供が可能となることも大きい。一方でQRコードの読み取り速度や制度などの実用的な課題も指摘される。

はたしてJR東日本方式でのQRコードシステムの導入はあり得るのか。今後の発表に期待したい。